京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
ガーシー氏 ― 除名と逮捕状(50条、58条)

ガーシー議員に対する除名
 アラブ首長国連邦のドバイに滞在しているといわれる会社役員でユーチューバーのガーシー氏(本名:東谷義和(1971年10月生))は、2022年7月に行われた第26回参議院議員選挙の比例区にNHKから国民を守る党(2023年3月に政治家女子48党に党名変更)から立候補し、28万7714票の得票を得て当選しました。
 ところが、ガーシー議員は、当選後帰国せず、約2013万円の歳費や期末手当を受領しながら一度も登院せず欠席を続けました。
 日本国憲法第58条第2項は「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。」と定めています。懲罰には、公開議場における戒告、公開議場における陳謝、一定期間の豋院停止、除名という4種類が定められています(国会法第122条)。
 「公開議場における陳謝」の懲罰を受けたガーシー議員は、これを拒否し、参議院本会議は、3月15日、賛成235票、反対1票で除名を決議しました。
 ガーシー議員の除名は、日本国憲法下での国会議員の除名の3例目で、1951年3月にアメリカ占領下の国会で、日本共産党川上貫一衆議院議員が行った「全面講和・再軍備反対」の代表質問が「議院の品位を傷つけた」として公開議場における陳謝の懲罰を受け、これを拒否して除名されて以来、72年ぶりの除名です。戦勝国アメリカへの忖度でしょうか?現在ではとても考えられない除名です。

議会の自律権と懲罰
 議会には自律権があると解されており、地方議会の懲罰に関し、最高裁判所は議会の自律権の尊重を根拠に、議員資格を失わせる除名は司法審査の対象となる(昭和33年3月9日判決)ものの、議会への出席停止はその対象とならないと判示していました(昭和35年10月19日判決)が、近時、出席停止も司法審査の対象となると判例変更しました(令和2年11月25日判決)。
 国会の例では、法律の成立に関し、自律権を根拠として両院が議決を経たとして適法な手続によって公布された法律の有効無効の判断をすべきではないと判断されています(最高裁判所昭和37年3月7日判決)。

ガーシー元参議院議員に対する逮捕状の発布
 日本国憲法第50条は「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。」と国会議員の不逮捕特権を定めています。法律に定める場合は、院外における現行犯罪と会期中にその院が許諾した場合とされています(国会法第33条)。
 国会議員の不逮捕特権は大日本帝国憲法第53条にも定められており、国会の自立性の確保を目的としたもので、特に、政府が警察・検察権力を行使して野党議員を拘束するという方法で行う議院の活動への圧力を防ぐ趣旨を有しています。
 除名によって議員資格を失った翌16日、ガーシー元議員に逮捕状が発せられました。警視庁によると、その嫌疑は、暴露系ユーチューバーとしての活動中の配信で著名人らを脅迫し、これが暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)に該当するというものです。ガーシー元議員がすぐに帰国する可能性が低いと見た警視庁は、警察庁に要請して国際刑事警察機構(ICPO)に国際手配する方針のようです。なお、逮捕状の有効期間は通常7日間で、有効期間経過後は返還を要しますが、被疑者が海外逃亡している場合には6か月の有効期間が認められる場合もあるようです(刑事訴訟法第200条、同規則142条第1項6号)。また、犯人が国外にいる場合には公訴時効はその期間進行を停止します(刑事訴訟法第255条)。

(弁護士 杉山潔志・2023年3月記)

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