京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
チャットGPTと憲法(19条)

チャットGPTとは
 チャットGPTとは、質問に自然な文章で答えてくれるサービスで、マイクロソフト系のOpenAIという団体が開発公開している人工知能(AI)です。質問に対する「答え」だけでなく、小説や戯曲、論文、イラストまで作り、しかもそれらが相当なレベルであるため衝撃が走っています。2022年11月に公開され、わずか2ヶ月でユーザー数が1億人に達しました。
 日本での調査では(野村総合研究所)、4月時点で12%の人が使ったことがあると答え、使ったことがある人の88.7%が続けて使いたいと答えました。マイクロソフトは検索エンジンBingでチャットGPT機能を利用できるようにし、Googlも同種サービスBardを始めています。チャットGPTに対しては、桁外れに大きな期待が高まっています。
 他方で、チャットGPTには、平気でうそをつく、悪用される、著作権やプライバシー権を侵害する、人間から仕事を奪うなど、社会生活の様々なところに問題を起こすのではないかとの懸念の声も上がっています。さらに、私たちが自律して自由に自分の考えを形成することが妨げられないか、そうなれば民主的意思決定をもAIに支配されることにならないかとの懸念も広がっています。
 アメリカでは、OpenAI共同創設者やアップル創業者の1人スティーブ・ウォズニアック氏などが、人類が制御できなくなるおそれがあると警告を発し、少なくとも半年間は開発を中断するよう求めています。

自由な意思決定の阻害
 プロファイリングと言う技術を使ってインターネットの閲覧検索履歴からその人の趣味や嗜好を知ることができます。ある商品をネットで調べると同種商品の広告が頻繁に表示され、さらなる購入に誘導しようとしてきます。同様に、購入書籍や閲覧記事から思想や関心を把握し、ある判断に誘導するために、その人の思想や関心に応じた情報を送ることもできます。2016年アメリカ大統領選挙では、この技術が悪用されたと指摘されています。
 チャットGPTには、これとは異なる方法で、私たちの「こころ」をコントロールする危険があります。チャットGPTは膨大な学習データから確率に基づいてもっともらしい文章を作ると言われています。そこには、学習させるデータの範囲の問題と、特定の言葉や価値観を反映させ、あるいはさせないようにする調整の問題があります。もちろん私たちは、チャットGPTを使用する際にはこうした問題があることに心しなければなりません。しかし、どの範囲のデータを学習したのか、どのように調整されているのかは公開されておらず、それらが分からないままで使うほかなく、吟味は非常に難しいでしょう。
 極めて有能かつ便利なツールを、吟味する手立てのないまま使用し続ければ、誰もがチャットGPTに依存してしまうのではないでしょうか。自律的な自由な意思決定が阻害されることとなりかねません。

「思想良心の自由」との関係
 山本龍彦慶応大学教授は、2023年6月13日付朝日新聞のインタビューで、かつて教会と神が決め人間は導きに受動的に従う存在だったが、ルネサンス以降、理性に基づいて個人が決める世界に変わった、しかし今また、意思決定の主体をチャットGPTやAIに明け渡し、人間が受動的存在に成り下がろうとしている、思想良心の自由は、理性に基づいてそれぞれが形成した思想・信条を守るものと理解されてきたが、「こころ」に直接働きかける技術が出現した下では、その形成過程をも保護するものと理解しなければならない、と指摘しています。
 EU等が機敏に法的規制に向かおうとしているのに対して、日本では活用ばかりが論じられおり問題です。チャットGPTやAIがますます大きな存在になることは間違いなく、その透明性の確保は必須です。他の様々な問題も含めて、国民的に議論して、早急に国会でルールを作ることが求められていると思います。
(弁護士 井関佳法・2023年6月記)

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