京都南法律事務所 新法・改正法の紹介

改正された相続法(遺言を含む)
(2020年4月20日)

 2018年7月に「民法・家事事件手続法の一部を改正する法律」「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。
 相続問題を考える上で頭に入れておいたほうが良い改正項目も、いくつかあります。以下、簡単にそのポイントを説明します。
  • 第1 被相続人の準備
     1 自筆証書遺言の方式緩和
     2 夫婦間における居住用不動産の贈与に関する優遇措置
     3 自筆証書遺言の保管制度
  • 第2 死亡後のこと
     1 預貯金の払戻し制度
     2 配偶者居住権
     3 相続人以外の親族の寄与分制度
     4 遺留分制度の見直し
     5 法定相続情報証明制度(今回の改正外)

第1 被相続人の準備
1 自筆証書遺言の方式緩和
 自筆証書遺言は、簡単に作成でき費用もほとんどかかりませんが、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自分で書くことが必要である(間違った場合は、訂正の上訂正印を押す)ことから、多くの財産がある場合や内容が多岐にわたる場合に手が不自由なためにきちんと書けない、不正確に書いたため、疑義が生じるということがありました。
 今回の改正により、財産目録の表示については、自筆しなくてよくなりました。例えば、パソコンによる作成や、不動産の登記事項証明書や預貯金の通帳のコピー等を遺言書に添付する方法が認められるようになりました。
 その場合、目録や通帳のコピーごとに遺言者の署名押印が必要です。なお、同じ用紙に、遺言書の本文に続けて、パソコンで打った財産目録を続けることはできませんので注意してください。
2 夫婦間における居住用不動産の贈与に関する優遇措置
 婚姻期間が20 年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与について、基礎控除のほか配偶者控除が2000万円まで受けることが出来る制度があります。しかし、この場合でも、贈与した人が亡くなるという相続が発生した場合、贈与された配偶者には「特別受益があった」として、贈与分が相続財産とみなされる場合がありました。
 しかし、夫婦間贈与の趣旨は「相続財産には含まれない」と考えるべきであり、遺産分割において贈与した自宅は遺産の計算に入れなくてもよくなりました(「持ち戻しの免除の意思表示の推定」と言います)。
(例えば)
・居住用不動産3,000万円(贈与済み分)、預貯金3,000万円
・相続人は妻、子供2人
 妻の相続時受取額は、「特別受益があった」とされる場合は、0円「(3,000+3,000)×1/2−3000」でしたが、改正後は1,500万円「3,000×1/2」となります。
3 自筆証書遺言の保管制度
 自筆証書遺言は、簡単に作成でき費用もほとんどかかりませんが、遺言者がその存在を誰にも言わなければ、亡くなった時に公にならないことがあり、自らないし第三者に預けている場合でも紛失の恐れもあります。また、遺言者が書いたものかどうかについての争いとなることもあります。
 自筆証書遺言の保管制度は、そのようなことを未然に防ぐためのものと言えます。
 具体的には、遺言者の住所地若しくは本籍地、または、所有する不動産の所在地を管轄する法務局に対して保管の申請をし、自筆証書遺言を預かって保管してもらいます。遺言書の様式については定まっていますので、最寄りの法務局に問い合わせをしてください。
 なお、申請は、遺言者本人が法務局に行ってしなければいけません。保管された時は、「保管を証する書面」が交付されます。
 遺言者が死亡した場合、相続人、受遺者、遺言執行者などは、法務局に対して遺言書が保管されているかどうかを問い合わせることにより、その存在、内容を知ることが出来ます。


第2 死亡後のこと
1 預貯金の払戻し制度
 亡くなられた方の預貯金は、相続人の同意(それを前提として、銀行での手続き)がなければ、死亡後は引き出すことはできません。しかし、葬儀費用などの支出が必要になる場合があり、遺産分割が完了する前に、各相続人が金融機関に対し、遺産である預貯金の払戻しを請求できる事になりました。そのための裁判所の手続きも要りません。
 引出せる金額は、各預金について、各相続人の法定相続分の3分の1までで、同一金融機関で150万円以下です。
(例えば)
・A銀行の普通口座に900万円、B銀行の定期口座に630万円の預金
・相続人であるXさん(法定相続分1/3)が喪主として、葬儀費用を用立てることが必要
 →A銀行から100万円(900×1/3×1/3)、B銀行から70万円(630×1/3×1/3)、合計170万円を引き出すことが出来ることになります。
2 配偶者居住権
 亡くなった人の名義の建物に住んでいる配偶者について、これまでは、自動的にはその建物に住み続ける権利はありませんでした。
 住み続けるための方策として、2つの制度が設けられました。
 1つは、配偶者短期居住権で、建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6ヵ月を経過する日のいずれか遅い日まで、配偶者は、無償で住むことが当然に出来ます。必要な手続きはありません。
 もう1つは、配偶者居住権で、配偶者が、ずっと住み続けることが出来る権利です。手続きは、共同相続人間での合意、遺言書で遺贈、及び、家庭裁判所での配偶者の申請に基づく審判です(要件があり、必ず認められるわけではありません)。
 しかし、建物の所有権が認められるものではなくいろいろな場面で建物所有者との関係が生じることとなります。また、遺産分割協議においては財産評価がされ、配偶者1代限りの権利であり第三者に譲渡することはできません。
 よって、分割協議においては、建物(敷地を含めて)の取得とどちらが良いかを検討するほうが良いと思います。
3 相続人以外の親族の寄与分制度
 早く亡くなった夫に代わって、義父母と一緒に働らいたり、その面倒を見た妻(義父母から見れば嫁)は法定相続人ではないため、義父が亡くなった時にその相続財産から財産をもらうことはできませんでした。
 相続人以外の親族(6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族)について、「亡くなった人の財産の維持、増加に特別の寄与」した場合は、「特別寄与料」の請求ができることになりました。
 その請求は、相続人に対して行いますが、請求者と相続人間で協議が出来ないときは、家庭裁判所に審判の申立をすることが出来ます。この申立は、被相続人が亡くなったのを知ってから半年(または相続開始時から1年)以内ですので、注意してください。
4 遺留分制度の見直し
 これまでは、遺留分減殺請求をした場合、対象財産は共有関係となるのが原則でしたが、その場合、共有関係であること、ないし、共有関係を解消することをめぐって関係者間で争いとなることもありました。
 今回の改正で、減殺請求をした場合、金銭債権として発生することになりました。なお、具体的な金額の特定をする必要がないこと、請求期限はその遺贈などが遺留分を侵害することを知った時から1年間であることなどは、変わりありません。
 なお、減殺請求した場合、その債権の時効は5年ですので注意してください。
5 法定相続情報証明制度
 相続に際しては、誰が相続人かを確定するために、戸籍謄本、除籍謄本を役所からとることが必要となります。不動産の相続登記をしたり、預金を解約したりする場合、それらの書類を、法務局、各金融機関に提出することが必要です。その都度、原本を返還してもらうことはできますが、たくさんの戸籍謄本等がある場合は、煩雑な手続きになります。
 相続人が、それらの戸籍謄本等と法定相続情報一覧図(被相続人の氏名・生年月日・死亡年月日、被相続人と相続人との関係などを記載した関係図)を、法務局(登記所)に提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写し(「認証文付き一覧図写し」という)を、必要部数交付してくれます(費用はかかりません)。相続人が多い場合や、手続き先が多い場合に便利です。
 認証文付き一覧図写しを各金融機関など相続手続きするのに必要な所に提出すれば、その都度、戸籍謄本などを提出する必要はありません。
 もちろん、この制度を利用せずに、戸籍謄本等を使って、登記手続きや預金解約をすることはできます。


(参考HP)
・民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html#B002
・約40年ぶりに変わる“相続法”!相続の何が、どう変わる?
 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/1.html




home