京都南法律事務所 新法・改正法の紹介

自殺対策基本法が改正されました。

 自殺対策基本法の改正案が2016年3月22日成立し、一部の規定を除いて4月1日から施行されました。
 日本における自殺者は1998年に急増して3万人を超え、それ以降、毎年自殺者が3万人を超える状態が続きました(内閣府の統計)。このような中で、2006年に自殺対策基本法が成立、施行されました。自殺対策基本法は、自殺が個人的な問題だけでなく、背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、自殺対策が社会的取組として実施されなければならないこと、自殺対策が精神保健的な観点からのみならず、自殺の実態に即して実施されるようにしなければならないことなどを基本理念とし、国に総合的な自殺対策、地方自治体に、当該地域に応じた施策を策定し、実施する責務を定めています。事業主も、国や地方自治体が実施する自殺対策に協力し、労働者の心の健康の保持を図るための必要な措置を講じるよう努めるものとされました。そして、国や地方自治体が自殺防止に関する調査研究の推進、情報の収集・整理・分析・提供、教育・広報活動を通じた国民の理解を深めるための施策、心の健康の保持にかかる施策、医療提供体制の整備、自殺をする危険性の高い者の早期発見と自殺回避のための適切な対処、自殺未遂者に対する支援などの基本的施策を行うこととされました。
 今回の改正では、都道府県と市町村に年代、性別、職業などの項目別の自殺傾向を踏まえた自殺対策計画を定めることを義務付け、学校では、保護者や地域住民等と連携を図りながら、各人がかけがえのない個人として共に尊重しながら生きる意識の涵養、強い心理的負荷を受けた場合の対処の仕方、心の健康の保持を教育、啓発することが盛り込まれました。
 内閣府の統計によれば、2012年に年間の自殺者は3万人を割り、以後、減少傾向にありますが、2015年の自殺の原因は、49%が健康問題、17%が経済・生活問題、15%が家庭問題、9%が勤務問題などとなっており、引き続き、経済・生活問題や勤務問題が相当大きな割合を占めています。
 自殺の増加の背景には、家庭問題を原因とする自殺なども含め、新自由主義にもとづく規制緩和政策や経済・財政政策がもたらした格差社会の進展や非正規労働の増加、過度の成果主義・ノルマ主義の職場、ブラック企業の暗躍、医療・福祉・年金給付の劣悪化などの要因があるようです。今回の改正は、自殺対策について、一定の前進がありますが、それらの問題を大鉈を振って解決しなければ、社会的な要因にもとづく自殺をなくすることは困難であると思われます。

弁護士 杉山 潔志

情報更新:2016年4月
 
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