京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
「改正の手続き、その公布」(96条)

0 はじめに
 2021年6月11日、改正国民投票法(日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律)が成立しました。
 国民投票法とは、正式名称「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」といって、その名のとおり、憲法を改正する手続きに関して定めた法律です。
 一般的に、「憲法」とは、国の「最高法規」と言われていますが、憲法はどのような手続きによって改正されるのでしょうか?

1 条文
96条【改正の手続、その公布】
第1項
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
第2項
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

2 憲法改正の手続き
(1)憲法改正原案の発議
 憲法改正原案の発議は、衆議院議員100人以上、参議院議員50人以上の賛成が必要とされています(国会法68条の2)。
(2)憲法改正の発議
 憲法改正原案は、衆議院憲法審査会及び参議院憲法審査会で審議され(国会法106条の2)、衆議院本会議及び参議院本会議に提出されます(国会法106条の7)。
 そして、衆議院及び参議院本会議にて各議員の3分の2以上の賛成で可決されます(日本国憲法96条1項)。
 両院で可決された場合には、国会が憲法改正の発議を行い、国民に提案したものとされます(国会法68条の5第1項)。
(3)国民投票の期日
 国民投票の期日は、憲法改正の発議をした日から起算して60日以後180日以内において、国会で議決した期日になります(国民投票法2条1項)。
(4)広報・周知
 憲法改正案は国会で審議されますが、国民のすべてがその内容を把握できているとは限りません。そこで、国民にその内容や議論のポイント、さらには国民投票の手続について周知するために、各議院から選ばれたそれぞれ10人の委員で構成された国民投票広報協議会が設置されます(国民投票法11条、12条)。
 国民投票評議会は、憲法改正案の内容や賛成反対の意見、そのほか参考となる情報を掲載された国民投票広報の原稿の作成(国民投票法14条1項1号)、投票記載所に掲示する憲法改正案要旨の作成(同項2号)、憲法改正案などを広報するための広告(同項3号)などを行います。
 また、国民投票評議会以外にも、総務大臣、中央選挙管理会、都道府県及び市町村の選挙管理委員会は、国民投票の方法や次に述べる国民投票運動の規制、そのほか国民投票の手続関して必要な事項を国民に周知します(国民投票法19条)。
(5)国民投票運動
 国民投票評議会等による広報及び周知は、あくまで憲法改正案の内容や改正の手続に関するものです。
 一方で、特定の意見を持つ人々が、国民に対して賛成又は反対の投票をするよう、又はしないように勧誘することは、「国民投票運動」と言います(国民投票法100条の2)。
 国民投票法は、第100条から第108条で、「国民投票運動」についてのルールを定めています。具体的には、投票事務関係者や特定公務員(裁判官や警察官など)、教育者による「国民投票運動」の禁止(国民投票法101条から103条)、広告放送や新聞広告の規制(法105条から107条)などです。
(6)投票
 投票は、国見投票に係る憲法改正案ごとに、一人一票になります(国民投票法47条)。
 投票用紙には、賛成と反対があらかじめ印刷されており(国民投票法56条2項)、自身の投票したい意見の方を〇で囲み、投票します(国民投票法57条1項)。
 また、投票権を持つすべての国民が投票できるように、点字投票(58条)や代理投票(59条)、期日前投票(60条)も可能になっています。
 投票用紙に〇以外の事項を記載したもの(82条1号)や賛成と反対のいずれを囲んで〇をつけたか確認しがたいもの(同条5号)の場合には、無効投票となるので注意が必要です。但し、82条の規定に反しない限り、投票人の意思が明白であれば有効とするように定められています(同法81条)。
(7)開票
 開票についても、国民投票法に定められています(国民投票法75条以下)。
 憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数(先生の投票の数及び反対の投票の数を合計した数)の2分の1を超える場合(過半数を超える場合)には、国民の承認があったものと認められます(国民投票法126条1項)。
 この場合、内閣総理大臣は直ちに公布のための手続を執らなければなりません(同条2項)。
(8)結果を官報で公示
 国民投票の結果は、官報によって告示され、国民が知ることができます。

3 憲法改正に関する問題
(1)憲法改正の限界
 通説的な見解としては、憲法改正の内容には限界があるとされています。
 例えば、国民から憲法を制定する権利を奪うことや、すべての人に認められる自然権(人権)を尊重するという基本原則を変更することはできなとされています。
(2)最低投票率の問題
 日本国憲法及び国民投票法には、最低投票率の規定はありません。
 したがって、仮に有権者の半分しか投票せず、そのうちの過半数が賛成を投票した場合、有権者の約4分の1程度の賛成によって、憲法が改正されることになります。
 これは、投票しなかった有権者の意思を、投票した有権者の過半数の意思と同じであると推定すれば問題のない結論となります。
 しかし、有権者においてそのような理解が十分になされているか疑問ですし、法規範の根幹となる憲法をそのようなあいまいな国民の意思によって改正してよいのかという問題があります。
(3)2021年6月11日改正と今後
 2021年6月11日の国民投票法改正によって、主に投票人名簿の縦覧の廃止や期日前投票が認められる場合の拡張などがなされました。
 また、同改正では盛り込まれませんでしたが、CM規制や外資規制、インターネットの利用についても、今後議論を進めることとなりました。
 憲法の改正という重大性にかんがみれば、より広く国民に対して情報の提供を行うことが必要となります。
 しかし、一方で改正の内容ではなく情報の発信力や資金力組織力等によって、国民の判断が左右されるような事態は適切とは言えません。
 憲法の改正について、国民が十分な情報をもとに、公正な議論を行い、自由な判断で関与できる制度であることが求められます。
(弁護士 石井達也・2021年8月記)

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