京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
国会議員の免責特権(51条)

はじめに
 あらゆる国民には、表現の自由が認められます(憲法21条1項)。
 一方で、公共の福祉の観点から、その表現の自由には様々な責任が伴います。例えば、公の場で、他人の名誉を棄損するような発言をすれば、民事上の不法行為責任や刑事上の責任(名誉棄損罪)を負う可能性があります。
 ところが、憲法には、その責任を免除する条文があります。

憲法第51条
 日本国憲法第51条は、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は評決について、院外で責任を問はれない。」と規定しています。
 国会は国権の最高機関であり(憲法第41条)、それを構成する議員は全国民の代表です(憲法第43条)。したがって、自由闊達な議論がなされることが重要になります。
 一方で、国会は公開の原則(憲法第57条)から、あらゆる国民の目に開かれたものでなければなりません。
 そこで、憲法第51条は、両議院に議員に対して、このような「免責特権」を認めています。

「免責特権」の範囲
  • 人的範囲-条文は、「両議院の議員」としていますので、衆議院又は参議院の議員でなければ、「免責特権」は認められないことになります。したがって、国務大臣や地方議会の議員には、「免責特権」が認められません。
  • 場所的、時間的範囲-条文は、「議院で行った」としていることから、「免責特権」の対象は、本会議、委員会、両院協議会などに限定されます。したがって、衆議院又は参議院の議員であっても、国会の外、例えばプライベートな場所や時間に行った表現行為については、「免責特権」が認められません。
  • 責任の範囲-条文は、「院外で責任を問はれない」としています。したがって、「院内」では、議院の自律権(憲法第58条)から、その責任を問われる可能性があります。
     また、この「責任」とは、民事上又は刑事上の責任、すなわち裁判所で問題になるような「法的な責任」であると解釈されています。
     したがって、道義的な責任や政党内での責任については、「免責特権」が認められません。
  • 私人との関係-上記に述べたように、両議院の議員には「免責特権」が認められます。
 では、仮に両議院の議員が国会の場で、特定個人の名誉やプライバシーに関する権利を侵害するような、発言を行った場合であっても、何らの法律上の責任を負うことはないのでしょうか?
 この点、裁判所は、国会賠償法上、公務員である議員は個人責任を負わないとしたうえで、「国会議員が、その職務とはかかわりなく違法または不当な目的をもって事実を適示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を適示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認められるような特別の事情がある」場合には、国に国家賠償法上の賠償責任が生じるとしています。

終わりに
 国会議員には、上記のような「免責特権」が認められるですから、「忖度」することなく、自由な議論を行うことが求められます。
 また、そのような活発で自由な議論がなされることによって、我々国民は、それぞれの国会議員に対して、選挙結果という形でその「責任」取らせることができるようになります。
 したがって、国会議員に認められた「免責特権」は、民主主義を実現するうえで、非常に重要な「特権」であると言えます。
(弁護士 石井達也・2022年5月記)

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